1.態接辞の由来
日本語の動詞構成には、根源動詞から自動詞、他動詞の対を作り出す自他交替
の機能接辞を働かせて効率的に多くの有対動詞を派生させる傾向がある。
また、自他交替の機能接辞のうち、いくつかの接辞は汎用的に動詞の「態変化」を
派生できるものがあり、「態接辞」として再利用している。
例えば、
・「休む」に対して「手を休める」:他動詞化、「明日は休める」:自動詞・可能態、
「体が休まる」:自動詞・結果態、などの動詞生成ができる。 この状態は、
明らかに自他交替機能と態交替の機能変化が混然一体化している。
・自他交替接辞から態接辞へ再利用される機能接辞は、動詞原形語尾:−uのほか
①可能態接辞:−eru:文語体での連体形語尾:−uruなどからの変遷か、
②結果態接辞:−aru:文語体で受動態接辞としてすでに再利用の実績あり、
③強制態接辞:−asu:文語体で使役態接辞としてすでに再利用の実績あり、
自他交替と態交替がすでに文語体時代から混然一体化して続いているのです。
・現代語(口語体)での態接辞は①〜③のほかに、
④受動態接辞:−areru:(結果態②+可能態①)合成による、
⑤使役態接辞:−aseru:(強制態③+可能態①)合成による、
の2つを加えた、5つの態接辞が基本です。
・態活用の全体は、能動系、強制系、使役系の3つの態系統がある。
①能動系:能動態−可能態−結果態−受動態、
②強制系:強制態−強制可能態(使役態)−強制結果態−強制受動態、
③使役系:使役態(強制可能態)−使役可能態−使役結果態−使役受動態、
3系×4種の態形態がある。さらに能動系受動態から強制受動態への飛び移り連結
などもありますから、相当複雑な言語運用をこなしていることになります。
以上の説明を図で表現しておきましょう。
さて、態接辞の由来を少し冷静に批判的に検証する見方があってもよいだろう。
自他交替の機能接辞と態接辞が再利用関係にあると述べたが、詳細にそれぞれの
接辞を分析して再利用の有無を説明していない。
現状は日本語の語感に頼った類推に終始しています。しかし確度は高いと考えら
れる。
自他交替の説明では受動態の概念が説明できない(結果態で説明代用?)し、対
他の強制態、使役態も辞書の見出し語にならないから、自他交替の説明から抜け
落ちている。冒頭に記述した①可能態から⑤使役態までの接辞が態の接辞である
ことは間違いないが、由来が自他交替接辞であると証明できているのだろうか。
「態の双対環」文法では、接辞の再利用を前提にしているので、もっと掘り下げた
考察が必要でしょう。もっとも、再利用の証明がなくても態の接辞としての矛盾
がなければ、「態文法」に問題はないのです。
自他交替の接辞の詳細分析ならば、次節で考察する自律動作、律他動作、自発動
作、加勢動作(介助動作)、自動詞・他動詞などを分析して動詞全体からの共通性
を見つけ出す作業が必要です。まだ、体系的な考察が足りません。