行為反転の述語修飾句:
2012/05/29(火)
「日本語の構造−英語との対比−」:中島文雄:岩波新書:1987年
この本を読むと、日本語の文章構造をもっと深く考えて、作文しなければと反省の念を感じた。
新書版の装丁帯に日本語の曖昧性を論じた部分が抜き書きされてある。
装丁帯の文:
「女が男になぐられたコト」から「女がなぐられた男」ができ、これが「なぐられた男」になると誤解を生じる。
しかし①「女はなぐられた男に復讐をした」のようには用いられる。
・・・関係代名詞があれば、どちらが主格か対格か、はっきり示されるところである。
(本書より)
以下、わたしの哲学練習を書き込みます。
(1)なにが問題なのか?
英語と日本語とでは、関係代名詞の有無や、行為者と被行為者の明示習慣の有無とか、文章構造の差が大きいのは明白です。
日本語には関係代名詞句がないけれども、「女が+なぐられた→男に」へ変換する方法;つまり、これは連体形述語による『述語修飾名詞句の法則』で、熊手型名詞句を創り出すという日本語文法にかなっている。
文中で登場人物の省略がないので、意味論的にも安定だ。
だから、②「女はなぐった男に復讐をした」ではなく、「+なぐられた→男に」としておく方が「女の被害者」状態を表現しやすい。
また、視点を「男」側に移して、構成しなおすと、
③「男はなぐった女に復讐された」の文のほうが、
④「男はなぐられた女に復讐された」の文よりもなじみやすい。
(2)問題は「対格語が受ける行為の表現方法」の違い:
日本語の文章では、再帰表現をさけて、①、③のように視点を一方に固定した表現で済ませている。
おそらく問題点と考えられたのは、
○女側の視点:①熊手型「+なぐられた→男」
○男側の視点:③熊手型「+なぐった→女」
という修飾句要素に注目すると、人物(対格)と行為(被行為)の組み合せに逆転が生じていることでしょう。
人物と行為に逆転の表現があっても、不自然に感じない感性が問題なのでしょう。
再帰代名詞や人称代名詞をちりばめる英語方式ならば、
②改「女は女をなぐった男に復讐をした」
④改「男は男になぐられた女に復讐された」
これが普通の表現であろう。
登場人物のそれぞれに視点を移して、その行為を表現するから、意味を確定できる。
(3)日本語の「対格語への行為表現」は逆転修飾が当り前:
登場人物を「人と物の場合」で思考実験してみよう。
○「昨日買った→本」 ×「昨日買われた→本」とは言わない。
○「今夜見る→テレビ番組」 ×「今夜見られる→テレビ番組」(単純予定なら)言わない。
○「昼に食べた→天丼」 ×「昼に食べられた→天丼」とは言わない。
「人」は省略されているが、意味上は強く意識されている。
「食べられた天丼」といえば、「天丼」そのものを言及する場合の表現だろう。
(または丁寧化)
逆転修飾の方法は「人と人の場合」にも適用されると思考すれば、なにも問題になりません。
熊手型修飾述語の法則を整理すると、
①(被行為者)+(被行為述語:被行為者視点)→(行為者)
③(行為者)+(行為述語:行為者視点)→(被行為者)
○(傍観者の視点)、(行為者/被行為者)+(行為述語/被行為述語)→(被行為者/行為者)
:傍観者の感情移入の仕方で述語部分の選択がゆれることがありそうですね。
例:「太郎が+救けた→亀」/「太郎に+救けられた→亀」
(元文:「太郎が亀を救けた」/「亀は太郎に救けられた」)
②(被行為者)、(行為述語:行為者視点)→(行為者) :不自然な感じを受ける。
④(行為者)、(被行為述語:被行為者視点)→(被行為者):不自然な感じを受ける。
もしも、問題だから解決したいと実験するなら、簡単な方法は、読点区切を活かして
①「女はなぐられた、男に復讐をした」
②「女は、なぐった男に復讐をした」
③「男はなぐった、女に復讐された」
④「男は、なぐられた女に復讐された」
という若干強引な読点形式を採用するか、
または、熊手修飾をやめて、単純な連続述語文として
⑤「女は男になぐられて、男に復讐をした」
⑥「男は女をなぐって、女に復讐された」
のように構成するのがよい。