3.態接辞の使い方極意

 態活用をなるべく正しく使いたいと誰でも思いますが、学校文法では肝心の基
本態接辞:①可能態、②結果態、③強制態を(文語体あつかい?で)明確に教えてい
ません。教えたり、憶えたりは④受動態、⑤使役態に限られるようです。
(動詞単語のなかに①〜③の接辞要素が混然と一体化しているのにです)
「態の双対環」文法では、能動系、強制系、使役系の3種の「双対環」に対して、それ
ぞれ原形−可能−結果−受動の4つの態を配置しますから、態の全体を見通すこと
ができるのです。
 学校文法と「態の双対環」文法とでは見通す範囲が違いすぎるので、少し工夫を
して見通し範囲を広げてみよう。
〇能動系の態:態接辞、挿入音素ともに「r:自律動作、自分でする動作」を持つ。
 ・休む−休める−休まる−休まれる、
  :−u−e[r]u−a(r)u−a(r)e[r]u(態接辞だけを並べた)
 ・食べる−食べれる−食べらる−食べられる、
  :−u−e[r]u−a(r)u−a(r)e[r]u(態接辞だけを並べた)
この中で意味解釈に(学校文法によれば)疑義が生じるとしたら、
 ・可能態:−e[r]u/受動態:−a(r)e[r]u でしょう。
(「ra抜き」でなく、「a(r)抜き」が可能態の姿ですが、論理的には可能態も受動態
もあるべき必然の姿です)
・受動態は「結果+可能」の−ar・eruで合成されているので、意味は「動作結果が
 可能である」「動作実績がある」を表します。動作結果が「ある、在る、有る」と被
 動作者が言えば「受身」で、動作者が言えば「実績可能、経験可能」で、第三者が
 動作者へ言えば「尊敬」表現です。
・可能態の意味は「動作意図として可能である」を表します。
この可能態と受動態(結果可能)の意味の違いに的を絞って語感訓練するとよい
と思う。(受動態が受身だけでないことを感得できるようになるのが一番です)
つぎに、
〇強制系、使役系の態:態接辞、挿入音素に「s:律他動作、他にさす動作」と「r:自
 律動作」とが混在します。
 ・休ます−休ませる−休まさる−休まされる、(強制系)
  :−a(s)u−a(s)e[r]u−a(s)a(r)u−a(s)a(r)e[r]u(接辞並び)
 ・休ませる−休ませれる−休ませらる−休ませられる、(使役系)
  :−a(s)e[r]u−a(s)e[r]e[r]u−a(s)e[r]aru−a(s)e[r]are[r]u
   (接辞並び)
 ・食べさす−食べさせる−食べささる−食べさされる、
  :[s]a(s)u−[s]a(s)e[r]u−[s]a(s)aru−[s]a(s)are[r]u、
   (接辞並び)
 ・食べさせる−食べさせれる−食べさせらる−食べさせられる、
  :[s]a(s)e[r]u−[s]a(s)e[r]e[r]u−[s]a(s)e[r]aru→
   −[s]a(s)e[r]are[r]u、(接辞並び)
この中で意味解釈に(学校文法によれば)疑義が生じるとしたら、
 ・休ます、食べさす:強制態−a(s)u、と、これに可能態付加した形と同形の、
 ・休ませる、食べさせる:使役態−a(s)e[r]u、との組み合せでしょう。
さらに、
 ・「休まされる、食べさされる」:強制受動態−a(s)are[r]uと、
 ・「休ませられる、食べさせられる」:使役受動態−a(s)e[r]are[r]u、
との意味の違いを説明できないことだろう。
〇この4つの態動詞のうち、接辞での違いは、
 ・−asu:強制/−aseru:使役の部分だけです。
「態の双対環」文法では、この違いを次のように解釈します。
①強制:−a(s)uは、「s:他を律する動作、他に動作を指示する」の意味を含む。
 (対物他動詞「動かす、減らす、遅らす、枯らす」では強制より他動の意味)
②使役:−a(s)e[r]uは、「s:他を律する動作」+「r:自律動作」が合成される意味
 を持つ。この意味の違いが語感の違いになります。
・強制は、動作指示を出して他が服従して行動する語感になります。現実に行わ
 れる動作は指示主体でなく、被動作者に移ったままの感じになります。
 だから、強制受動態は受身感覚がめっぽう強くなります。
・使役は、他に動作を指示するが、指示の動作成立を(自律動作として)待つ、場合
 によっては、介助的に手を貸すこともありうる。
 だから、使役受動態は受身、介助受け感覚、使役実行可能、尊敬表現などを感じ
 ます。(強制受動態、使役受動態の打消し構文で較べると意味差がよく分かる)
〇強制と使役の意味の違いを感じる様子を説明しましたが、実際の例では、
 ・手を休める:他動詞、手を休めさす:他者に強制、手を休ます:他動詞?強制?、
  手を休ませる:他動詞?他・可能態?使役態?、風邪で学童を休ます:強制態、
  学童を休ませる:使役態、医師が母親に(学童を)休まさせる:強制使役態、
  医師が親子に休ませさせる:二重使役態、
 ・休まされない:強制受動態、休ませられない:使役受動態、サンマを食べさされ
  ない:強制受動態、サンマを食べさせられない:使役受動態、などのように強制
  系・使役系は他動詞とも競合したり、強制、使役で重なり合ったりする。
単なる他動詞表現に止めるか、強制・使役で表現すべきか迷う場合もあるだろう。
しっかり判断してから発話することが肝心です。
以上、能動系、強制系、使役系の各態について、特に注意すべき用法を箇条書的に要約して図に示す。