「失敗学」権威が福島原発事故を検証へ
2011/5/25 10:04
Japan Real Time (ウォールストリートジャーナル日本語版)

 畑村洋太郎東大名誉教授(70)は「失敗学」、つまり、何が間違っていたかを突き止める専門家として知られる。その実績を買われ、福島第1原発危機の原因解明を託された。24日、同原発の事故原因を究明する第三者機関「事故調査・検証委員会」の委員長に指名されたのだ。

仙谷由人官房副長官は記者会見で、同委が事故対応の調査のほか、日本の原子力行政の「歴史的経緯に踏み込まざるを得ない」と述べた。

与えられた任務はまさに畑村氏の得意とする分野にある。同氏が運営する特定非営利活動法人「失敗学会」は、過去の失敗に学び、再発を防ぐ方法を研究している。同氏はまた、科学技術振興機構のプロジェクトで構築した「失敗知識データベース」を公開している。失敗学会は数年にわたり、原発事故に関する過去の分析も集めた。福島第1ほか東電の原発の例もある。

失敗学は、2000年の「失敗学のすすめ」出版をきっかけに国内で強い支持を得た。サクセスストーリーを語る本が並ぶなかで異彩を放つこの本はベストセラーとなり、失敗しない方法に対する日本人の伝統的メンタリティーを覆した。

畑村氏はこれまで、日本企業が直面する大きな課題について、自らの間違いを認め、小さな間違いが深刻な問題に発展する前に調査して重要な教訓を学ぶことだと指摘してきた。

同氏は失敗を、いい失敗と悪い失敗に分類している。初めて課題に挑むのは必然的にいい失敗だ。失敗を犯しそこから学ぶための初の試みであり、進歩に欠かせないという。1940年に米ワシントン州で起きたタコマ橋崩壊もその例だという。風が強い11月のある朝、幅の狭いこのつり橋は風を受けてねじれ、タコマ海峡に落下した。畑村氏は、産業知識に貢献した最も重大な設計の失敗の一つだとしている。

一方、86年のチェルノブイリ原発事故については、文部科学省傘下の科学技術振興機構が2007年に「対談!原子力事故ファイル〜原子力関連事故と検証」で行ったインタビューで、「だめなものはだめ」、と分析。チェルノブイリで使われていた方式は日本や米国で使われている方式と異なり、原発に合わないものであったことが根本的な間違いだった。そうしたものを何とか使いこなそうとしたことが同原発の問題だと指摘、悪い失敗に分類している。
記者: Yoree Koh