2011/05/16(月):「福島原発事故の本質」を読んで
 5月16日付の日経エレクトロニクス寄稿記事「福島原発事故の本質」〜「技術経営のミス」は、なぜ起きた〜
寄稿者:山口栄一(同志社大学大学院教授)を読みました。
 東電が12日、1号機の核燃料が初期段階でメルトダウンしていたと発表したばかりだったので、原子炉の内部構造を詳しく解説するこの寄稿記事に接することができたから大いに参考になりました。
記事では、原発事故の原因を大きく3つあげている。
(1)非常用ディーゼル発電機を防水構造にせず、海岸際のタービン建屋内に配置するという全体配置設計のミス。
(2)「想定外」では済まない原子炉設置高さ設計のミス。(以上2つは3次元空間軸のグランドデザイン構想力の欠如)
(3)全電源喪失したとき「最後の砦:隔離時復水器」が作動している時間内に「制御不能」回避の原子炉冷却の戦略を立てられなかったミス。
  (時間軸のグランドデザイン構想力の欠如)

 記事の核心は、とりわけ3番目の原因が決定的だという。 原子炉内部構造と地震発生以降の原子炉格納容器内圧力、原子炉水位の経時変化データ(原子力安全・保安院、原子力安全基盤機構が公表したもの、および官邸資料を参考にしたもの)から推測した原子炉内部の事故状況を描き出している。 特に全電源喪失状態でも一定時間は冷却機能をはたす「隔離時復水器」(最後の砦)の動作に注目している。 この機能の有効な時間範囲を超えると冷却の「制御不能」に陥る。
○1号機:データ検討の結果、最後の砦「隔離時復水器」は、設計通りの冷却を約8時間つづけた。
○2号機、3号機:進化改良した「原子炉隔離時復水器」装備されており、2号機では約63時間、3号機では約32時間のあいだ「最後の砦」が作動し続けた。
 さらにくわしく時間経過をみると、
○1号機の経過:全電源喪失から約8時間「最後の砦」が機能したあと、制御不能へ。「制御不能」から7時間後に「淡水注入」、さらに8時間後「水素爆発」、さらに5時間弱後に「海水注入」(制御不能から20時間後)開始。
○3号機の経過:全電源喪失から約32時間「最後の砦」が機能したあと、制御不能へ。「制御不能」から約14時間後に「海水注入」。
○2号機の経過:全電源喪失から約63時間「最後の砦」が機能したあと、原子炉水位が下がり始め、格納容器内の圧力も上がり始めた。
 約6時間後に「海水注入」開始した。しかし、数時間後にポンプ車の燃料切れを見逃してしまい「海水注入」が中断されて、もっとも深刻な炉心 溶融が引き起されて、ついには圧力容器を損傷したおそれがある。
 記事では以上の分析から、事故の本質は「技術経営のミス」と記述している。
○「最後の砦」が機能している間に、「制御不能」事態に対応する手立てをもっと真剣に講じておくべきだったとほんとうに後悔した東電関係者が
 どれほどいるのだろうか。(これは当方のつぶやき)
○「制御不能」段階では間髪を置かずに「海水注入」しかないと少なくとも現場技術者は予見できたに違いない。
○それは原子炉の廃炉を意味する。 東電の経営陣が「制御不能・熱暴走」を止めるには「海水注入」しかないと腹をくくり納得するのに、
 20時間を要したとみなされる。 東電経営陣の意思決定がなければ進まない、まったく訓練想定がされていなかった? 
○記事では「近代技術応用は常に科学パラダイムに基づいた乗り越えられない「物理限界」があり、原子炉の「物理限界」は核燃料の崩壊熱が
 永続すること」、「同様な事故に「JR福知山線事故」があり、線路曲線半径が600mから304mに変更すると発生する「物理限界」の
 異常さに配慮を欠いた意思決定があった。 この事故の本質も技術経営のミス」と指摘する。
○記述では、技術経営のミスをなくしていくための提言にも触れているが、以下省略する。
○記述では、原子炉周辺、配管、各建屋、ダクトなどについての地震被害、津波被害に触れていない。

 原子炉の内外配管、支持部材などの被害が相当発生していたのではないだろうか? 安全神話が通用しなかった部分があるはずだ。
これについては、東電の正式事故調査が必要だ。 今回の専門家による判りやすい寄稿記事で多くの疑問点が納得できました。

 逆にひとつだけ心配になったことがある。 記事中の図表数値のうち、
○原子炉外側の格納容器(内)の耐圧が、1号機:0.43MPa、2、3号機:0.38MPaの設計になっている との記述がある。
 (内側の炉心の圧力容器は8.3MPaまでの耐圧設計になっている)
 通常の消防ホースの送水耐圧は0.4〜0.7MPaに規定されているはずだから、原子炉の格納容器の耐圧がそれと同等でよいのだろうか?
 (耐圧限度はもっと高いが、定常運転状態での格納容器内の圧力設定目標値のことなのでしょうか?)


 素人ながら原発事故のニュースを見聞きして、思いが募ってしまい、未熟な思考を書き留めました。