第3章
3. 態文法を再生する
前章の「態文法を考える」では、態動詞の生成方程式や態接辞の意味、「態の双対環
」の考え方を具体的に述べました。 これで態文法にすっかり疑問がなくなり、すべ
て丸く収まるならば、めでたし、めでたしです。
しかし、「態の双対環」を思考するなかで出会った問題点は日本語文法の現状課題と
して厳然と存在します。 それを解決するためにも、東京語を話す人だけでなく京
都語、大阪語、九州語などを話す人の感性、語感も加えた多面的な検討が必要では
ないかと思います。
〇本来なら、「態文法を再生する」と題した章では、再生するための具体的処方箋が
提示されるべきでしょう。「処方の要項」は以前から、おそらく半世紀以上も前か
ら揃っています。
①ローマ字つづり解析による「子音語幹/母音語幹の識別法」。 :語幹が決った。
②佐久間鼎:「自/他動詞の交替接辞の対応図式」。 :態接辞が決った。
③態動詞生成の3項方程式:「動詞語幹+挿入音素+態接辞」の扱い方。さあ、残るは
「挿入音素」の扱い方です。動詞活用の方程式、助動詞接続方程式にも効果があり
ます。(学校文法の改築を始める突破口になるでしょう)
〇「【動詞語幹+挿入音素】+機能接辞」が定着することなしに態文法の安定はない
だろう。
この章では、態文法を考える途中でしばしば感じた日本語の現状課題について記述
します。(動詞活用の全体ではなく、態動詞の生成、意味解釈、使い方の課題です)
4つの問題のうち、
3.1【強制態と使役態を使い分ける】、3.2【結果態と強制態を再評価する】、
3.3【受動態の深層意味はひとつ】、 3.4【可能態と受動態は住み分けて】、
前半2つは「態の形態」そのものに関わるので、手強い問題です。
後半2つは態文法「態の双対環」で思考してきた問題ですから、態の意味・解釈とし
て記述・再現します。 「態の意味・解釈を初期化し、新設定する」つもりで読んでく
ださい。
この章の導入を兼ねて、一つだけ課題を整理しておきたい。
それは、二重可能態の誤用に関する説明の整理です。
(使役態は強制可能態と同一形態ですから、使役可能態は強制可能・可能態に相当し
ます。使役態が律他能動性の強い動詞なので、使役可能態に変換しても問題なく所
動性の動詞として使えます。それでも、「3.1 強制態と使役態の使い分け」で考慮し
たいことがある)
【二重可能態を誤用であるとする理由】:動詞例で感得してください。
「態の双対環」と「て形連節化」して使用例を調べる。
〇可能系とは、可能態動詞を能動原形態(普通の動作動詞)に仮定して「双対環」
活用させたもの。活用した動詞では意味が成り立たないことを確認してほしい。
【例1:子音語幹:行くの場合】
能動系: 行く/行ける/行かる/行かれる
て連節:行って/行けて/?行かって/行かれて
可能系: 行ける/?行けれる/?行けらる/?行けられる
て連節:行けて/?行けれて/?行けらって/?行けられて
強制系: 行かす/行かせる/行かさる/行かされる
て連節:行かして/行かせて/行かさって/行かされて
使役系: 行かせる/行かせれる/行かせらる/行かせられる
て連節:行かせて/行かせれて/行かせらって/行かせられて
【例2:子音語幹:読むの場合】
能動系: 読む/読める/読まる/読まれる
て連節:読んで/読めて/?読まって/読まれて
可能系: 読める/?読めれる/?読めらる/?読められる
て連節:読めて/?読めれて/?読めらって/?読められて
強制系: 読ます/読ませる/読まさる/読まされる
て連節:読まして/読ませて/読まさって/読まされて
使役系: 読ませる/読ませれる/読ませらる/読ませられる
て連節:読ませて/読ませれて/?読ませらって/読ませられて
【例3:母音語幹:食べるの場合】
能動系: 食べる/食べれる/食べらる/食べられる
て連節:食べて/食べれて/?食べらって/食べられて
可能系: 食べれる/?食べれれる/?食べれらる/?食べれられる
て連節:食べれて/?食べれれて/?食べれらって/?食べれられて
強制系: 食べさす/食べさせる/食べささる/食べさされる
て連節:食べさして/食べさせて/?食べささって/食べさされて
使役系: 食べさせる/食べさせれる/食べさせらる/食べさせられる
て連節:食べさせて/食べさせれて/?食べさせらって/食べさせられて
【例4:母音語幹:忘れるの場合】
能動系: 忘れる/忘れれる/忘れらる/忘れられる
て連節:忘れて/忘れれて/?忘れらって/忘れられて
可能系: 忘れれる/?忘れれれる/?忘れれらる/?忘れれられる
て連節:忘れれて/?忘れれれて/?忘れれらって/?忘れれられて
強制系: 忘れさす/忘れさせる/忘れささる/忘れさされる
て連節:忘れさして/忘れさせて/?忘れささって/忘れさされて
使役系: 忘れさせる/忘れさせれる/忘れさせらる/忘れさせられる
て連節:忘れさせて/忘れさせれて/?忘れさせらって/忘れさせられて
以上のように、可能態は所動性が強い(動作性が弱い)表現なので、二重可能態に
なるような使い方をしないこと、誤用を感じとれるようになってほしい。
(二重可能態を抑止する意味で、母音語幹動詞の可能態を認めなかったのかも)
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