まえがき 改訂版
 日本語の態文法について、現代人の多くは「学校文法」で学習した範囲の知識を
基本にして毎日の言語運用に活用しています。
では、学校文法の規則を活用して、かつ、自分の頭脳でそれを応用して言語運用で
生じる実際の疑問にどの程度答えられるでしょうか。
態についての課題例をあげます。
①なぜ受動態には、受身、可能、自発、尊敬など多くの意味を感じるのか?
 この「理由」を自分の頭脳で考えて他者に教えることができるでしょうか?
②なぜ受動態表現を自動詞、他動詞、強制・使役動詞にも適用できるのか?
 この「理由」を自分の頭脳で考えて他者に教えられますか?
 ③少し前置きの説明をつけます。
古くは「ひらがな解析」で動詞活用を調べて文法化していたけれど、現代では
「ローマ字つづり解析」を用いて「語幹」や「態接辞」が明確になったはずです。
【学校文法例】
 ・子音語幹動詞の受動態:歩か・れる、→態接辞:「れる」、
 ・母音語幹動詞の受動態:食べ・られる、→態接辞:「られる」、と説明する。
【「ローマ字つづりによる音素解析」例】
 ・子音語幹の受動態:歩k・あれる、→態接辞:「あれる」、
 ・母音語幹の受動態:食べ・r・あれる、→態接辞:「・r・あれる」、と解析する。
③さあ、態接辞:「あれる」が共通です。また「・r・」をなんと解釈するのか?
③少なくとも、受動態接辞を「動詞活用の未然形に接続する」は間違いでしょう?
 ④可能態を同じ「ローマ字解析」により考察します。
 ・子音語幹動詞の可能態:歩ける=歩k・える→態接辞:「える」、
 ・母音語幹動詞の可能態:食べれる=食べ・r・える→態接辞:「・r・える」、
④さあ、可能態の接辞:「える」が共通です。「・r・」をなんと解釈するのか?
〇可能態接辞:「える、eru」=受動態接辞:「あれる、areru」から「ar」を抜いた形態
 です。その「ar:ある」は「動作(結果)がある」を意味するから、結果前の意思として
 の可能を表現するのが可能態です。
④世間で言う「ら抜き、ら抜け言葉」は名称からして誤解の産物です。正しくは
 「ar抜き、ar抜け言葉」なのですが、論理的文法としては「歩ける、食べれる」ともに
 正当な可能態と見なせます。逆に学校文法に非合理があると思えませんか?

 以上の課題例には、まだ公式的な正解が存在しません。
現在の学校文法では、上記の課題例に合理的な回答を明示していません。
日本語研究分野、教育分野でも合理的な回答を明示できていません。
これらの学問分野において、頭脳で考えを巡らさないわけはありませんから、考え
る筋道が間違った方向に向いているのでしょう。
 本論の考察では、自問自答や思考実験の試行錯誤を繰り返しながら正解や新解釈
を求める方法をとっています。すでに③④課題から4つの新解釈が生まれており、
ある意味で「公知の新解釈」と言えます。「公知の新解釈」を念のため列記すると、
(1)学校文法:「動詞活用の未然形に態接辞を接続する」には論理矛盾がある。
(2)学校文法:「受動接辞:れる/られる」の2形態で示すのは、不適当。共通の接辞
 形態:「あれる」を示すべきだろう。
(3)歩k[無音]areru、食べ[r]areru、のように、接続点で音韻調和をとるための
 [挿入音素]を入れると解釈すれば、「areru:あれる」が共通の接辞形態となる。
〇使役態にする場合も、歩k[無音]aseru、食べ[r→s]aseru、と挿入音素の交替
 現象を考慮すれば、「aseru:あせる」が共通の接辞形態になる。
(4)可能態にする場合、歩k[無音]eru、食べ[r]eru、と生成でき、「eru:える」が共
 通の接辞形態になる。
〇学校文法:「可能動詞を五段活用動詞だけに認める」ことの不合理さが公知される
 段階に近づいているだろう。

 「態文法」を考えるなかで、[挿入音素]の概念を柔軟に解釈すると、さらに大きな
利点が生まれることに気づいてきました。
発話段階での「動詞と態・助動詞の接続関係」の生成順序や構造化手順を、それぞれ
簡単な方程式で表せるのです。
(1)態生成の方程式=「【動詞語幹+母音なら挿入音素[r/s]】+態接辞」
(2)動詞活用の方程式=「【態動詞の語幹+挿入音素[x]】+活用接辞」
(3)助動詞接続の方程式=「【態動詞語幹+挿入音素[x]】+活用接辞+助動詞接辞」
  助動詞接続では、活用接辞なしで直接接続もあり、挿入音素[x]が助動詞接辞で
  決ることもある。挿入音素:xは子音または母音「一音素」で間に合う。
  (挿入音素xとして一拍分の長さを持つ音便:I、Q、Nも含められます)

 まえがきが長くなりすぎました。 本編が仮説だらけの思考実験ですから、まえが
きと、はじめにを読んでいただけば、全体の骨子がまず見通せるようにと配慮しま
した。
どうぞ、本文を通読していただき、ご自身のお考えと比較していただけたら幸いで
す。 読了したときに、上記の①〜④の課題例に対してもう一度ご自身の頭脳を使
って解答してみてください。 新しい視点に立たれることを期待します。
読みながら考えるときに、「それが正しいならすべてに適用できるのか?」、「条件が
逆なら、どうなるか?」、「その二つで全体になるか?」という視点で本編を検証して
いただけるとうれしいです。
この方法を「二分合体思考法」と名付けましたが、思考実験の自己検証に役立つから
です。ものごとは表裏一体、相補双対の関係にあることが多いからです。
例:考えられる→:考え[r→s]a(r→s)eru:←考えさせる、受動態と使役態が表裏一
体、鏡像関係にあることに気づいています。


****