はじめに
日本語の文章を読んだり書いたりしてきた経験はそれほど多くありませんが、若い
時代に日本語の受動態の多義性に人一倍の関心を持っていました。
・足を踏まれた。
・本を贈られる。
などの表現方法が西欧語に比べて独特な感性だなと気になっていました。
それから40年、仕事を卒業したのち、独学の学習や思考実験を繰り返しているうち
に、ようやく日本語の独特な感性の深層構造が分かったように思います。
冒頭にお断りしますが、考察の範囲は「態文法・考」であること、文法全般でなく「態
文法」に限定したことです。文章の書き方や進め方が「考える」、「語感として感じる
」ことを元にしていますから、分かりにくいところが随所に現れると思います。分か
るところだけでもいくつかあればうれしいです。
できる限り参考文献や現状文法のどこに合意ができ、どこに賛同できないと「考え
る」かを挙げてから試論・仮説を記述したつもりです。
これから述べる「態文法:「態の双対環」方式」の内容は、いわゆる学校文法の「態の文
法」と適合しない部分に焦点を合わせ、新しい仮説を提起するものです。
また、日本語教育の現場でも「学校文法」と違う方針で構文説明している実態もある
でしょうが、その教育現場での「教育文法の常識」にも対立する側面があります。
実際、日本語研究分野の学外研究会に希望参加して「態文法・考」を披露させていた
だきましたが、常連会員からはとても懐疑的、反発的な反応がほとんどでした。

現在の日本語で言葉の乱れとして問題になっているものに、いわゆる「ら抜き言葉
:誤名称ですが、非文法ではありません」、「さ入れ言葉」、「れ足す言葉」などの使用
があります。
これらはすべて動詞の「態の文法」に関わる事柄です。
右に図示する学校文法の「態の生成」は、態接辞の形態が2種類ずつあり、語幹と
態接辞の接続を間違える可能性があります。また、接辞自体が持つ意味についても
十分に感得できていないと感じています。

この問題を解決するには「態の文法」常識:ひらがな解析による動詞語幹+活用語尾
を見直し、ローマ字つづりで正確に音素つながりを解析する必要があります。
「ローマ字つづり」で音素解析すれば、語幹と付加音素と共通接辞の形態が明確にな
り、動詞語幹と態接辞の接続方法の「新しい方程式」へ近づきます。

 音素解析の効果を形にしたものがつぎの方程式です。
【態動詞生成の方程式】=「動詞語幹+挿入音素+態接辞」の3要素での合成で態が
構成されると考える。
おそらく音素解析を行う研究分野としても、この3要素による3項方程式が基本模
型になることに理解はしていただけると思う。

 右に図示する【新文法:態の生成】で提唱する「態文法」は、3項方程式の解釈で
独自の文法則を応用するものです。
〇態動詞を生成するとは:動詞の活用ではなく、その前段階で態動詞を生成する
 こと。
〇方程式の【1項+2項】の語尾が必ず子音語尾であれば、態接辞(すべて母音始ま
 り)に音韻的な接続が円滑にできる。
〇子音語幹動詞は、そのままで子音語尾の条件に合致している。
〇母音語幹動詞は、終止形語尾「る」の[r:自律動作を表す]を挿入音素として付加す
 ると、子音語尾にできる。(現実の日本語をローマ字解析すると分かります)
〇母音語幹動詞を使役系態生成する場合には、「さす:S・asu/させる:S・aseru」の
 [S:する動詞の単音語幹]を挿入音素として付加すると、意味的にも強制・使役(他
 を律する動詞)風の子音語尾化ができる。(現実の日本語をローマ字解析すると分
 かります)
〇【動詞語幹+挿入音素】を図では原態形と仮に名付けたが、(この3項方程式の形式
を、態生成だけでなく、動詞活用や助動詞活用にも応用するので)本文では使用しま
せん。
〇原態形:子音語尾化したので、態の接辞は共通形態で表現できます。
 これが「ローマ字つづり解析の効用」です。
〇態の言い間違えがなくなり、「ら抜き言葉」が正当化される反面、「さ入れ言葉」と
 「れ足す言葉」が消える方向に向かうでしょう。


ただ、この方程式を解釈するにも3通りの方法があり得ますから、現在の実践の方
法にも差が現われています。
(1)日本語教育現場:態動詞=「【動詞語幹+挿入音素+態接辞】」
 :棒読み式に3つの要素を一括りにした構文として教える、覚える。
  (特に外国人留学生向け日本語教育の現場)
(2)日本語研究分野:態動詞=「動詞語幹+【挿入音素+態接辞】
 :動詞語幹を区別させ、学校文法と同じく挿入音素を態接辞の頭部に付加
 させる方式です。
 これでは、動詞語幹が子音/母音の区別、挿入音素・有/無の差が付いた態接辞で
 、2×2の選択組合せですから、選択間違いの元凶が残ります。
 将来も言い間違いが発生します。
(3)「態の双対環」方式:態動詞=「【動詞語幹+挿入音素】+態接辞」
 :挿入音素を動詞語幹側に付加するのが画期的な解釈方法です。
  【動詞語幹+挿入音素】と見抜けば、態接辞の姿、形が単一化し明確になり、当然
 の結果として、単一の態接辞ですから選択間違いが起きようもありません。

この動詞に関する3項方程式は、態動詞の生成だけでなく、動詞活用、助動詞活用の
際にも適用できるものです。
つまり、(動詞語幹+挿入音素・付加操作)することによって、後続する活用接辞、助
動詞接辞の子音/母音始まりに適合させられるわけです。
★「態文法」にとって、あるいは「動詞文法」にとって、3項方程式の第3解釈法:
「【動詞語幹+挿入音素】+機能接辞」は目から鱗の大転換といえる非常に合理的な
文法則になるものです。

 遅ればせながら、本書の記述構成をご案内します。
第一章では、
 動詞の構造、自他交替の機能接辞、使役受動の構成を記述する。
第二章では、
 最初に態生成、動詞活用、助動詞接続を3項方程式の第3解釈法で記述する。
 次に、態の区分:自律動作/律他動作、能動性/所動性の対向を提起する。
 もう一つ、新しい「態文法:「態の双対環」方式」には、
【態の双対環】という独特な仕掛けもあります。
・1つ目の態の対向軸【能動態←・→受動態】を垂直に立て、
・2つ目の態の対向軸【結果態←・→可能態】を水平に組合せて、
 環状の「双対環」に見立てた新しい考え方です。
【結果態接辞:aru←・→eru:可能態接辞の対向関係】を用いた実際の自他交替
動詞例の数は、圧倒的に大量です。重要な文法原理が隠されているはずです。
第三章では、
 新しい態文法を再生しながら、態運用のときに問題となるものをどう解釈する
 か、4課題にしぼりこんで記述しました。

では、ご一読をお願いいたします。


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