2.2 【態の区分を考える】
【態の旧式区分】:寺村秀夫:『日本語のシンタクスと意味−1』
 寺村本の第3章 態:最後部に「本居春庭の動詞表現機能分担」の図表がある。
おさらいしておこう。
春庭の動詞類別は、動作が向かう方向、対向する関係性を基に区分している。
①みずから為す動作:自律動作→自動詞、他動詞。(動詞自体で能動態を表す)
②おのずから成る動作:自発・可能動作→自発態、可能態動詞。
③他から為される動作:他律?動作、受身動作→受動態動詞。
④他に為さす動作:律他動作→強制態動詞、使役態動詞。
・(寺村・態の枠付け):受動(直接・間接)−自発・可能−自動詞・他動詞−使役(・強制)
 :のように、春庭の類別を図表の態に引き当てている。
 (春庭の時代、「態」の術語がなかっただろうが、態の概念はあったのだ)
・寺村本では、文法的態と単語的態を境界区分しがたいと言いつつ、同一とも言えず
 にいる。 また、「受動−可能−自・他動詞−使役」を直線状に並ぶものとの見方しか
 記述していない。

【態の新式区分】
:「態の双対環」文法では、動詞の「自律動作/律他動作」の区別と「能動性/所動性」
 に重きをおく。
 「本居春庭の動詞類別」の独創的な視点に感心しますが、「動作の方向性」と「態の
 類別」関係を考慮したのか定かではない。
★新しい態文法「態の双対環」で、春庭・寺村風の動詞類別に習って書けば、結果態
 と強制態、使役態の動詞が増えるだけに見えますが、
①みずから為す動作:自律動作→自動詞、他動詞。
 (動詞自体で能動態を表す:能動性)
②おのずから成る動作:自発・可能動作、状態→自発態、可能態動詞。(:所動性)
③為されたる動作結果を表す:→結果態動詞。(:所動性)
④為されたる動作結果を述べる:→受身、実績の動作→受動態動詞。(:所動性)
⑤他に為さす動作:律他動作→強制態動詞。(:能動性)
⑥他に為さす動作:律他動作→使役態動詞。(:能動性)
 この箇条書きが意味するところを説明します。
★「態の新式区分」は、広くて大きい「態の区分/態の双対」を見通しています。
図表では、前節【態動詞生成の方程式】の表で示したように、能動系、強制系、
使役系の「3種の態の区分」×「4つの態で作る双対環」を想定している。


★「態の双対環」で提唱する「態の区分」は、3系×4態=12態動詞の広がりです。
能動系 態区分:①能動態−②可能態−③結果態−④受動態。
強制系 態区分:①強制態−②強制可能態−③強制結果態−④強制受動態。
使役系 態区分:①使役態−②使役可能態−③使役結果態−④使役受動態。
 3系の態が相似的な構造になっています。態の並び方が一直線でないことを示し
 ます。
上表では動詞例に「歩く」「食べる」をあげて、語幹+挿入音素+態接辞で態生成
することを簡略説明すると同時に、「原形態のみが動作の能動性を表している」、
「それ以外の各系可能態、結果態、受動態などは、動作性よりも所動性を表す」
ことを表示したもの。
★②可能態は、自他交替で「動作の直接交替を表し能動性を保つ」場合と、
 「自発の変化状態、動作可能の意思状態の表明:所動性」になる場合がある。
・自他交替でない「可能態」動詞は能動性が弱まり「動作意図としての可能性を
 表出」するだけになります。所動性を帯びた可能態「行ける」を能動的な動詞と
 勘違いして「行け・r・える」と二重可能態にする誤用例も多い。
★③結果態、④受動態は「動作の対向関係を表すのでなく」、「動作結果と向き合う
 視点での表現:所動性」の動詞です。
③結果態、④受動態は動作の方向を強調すると受身表現に偏ってしまう。あえて
 方向性を除外して考えると、日本語の受動態構文で主語になるのが、動作主でも
 被動作主でもよいという文法則に近づきます。
 「動作結果」を動作主体が、または被動作主体が、あるいは第三者が取り上げて
 発話できる動詞態なのです。
自動詞でも他動詞でも使役動詞でも受動態で動作結果を語れるのが、日本語の特長
です。西欧語の受動態概念より、はるかに広い意味合いに対応する視点を持ってい
る。
(三上章文法の「能動詞/所動詞」論は、広範囲に態を扱うには必須の文法ですね)
【能動詞と所動詞】:三上章文法を借用する
〇能動詞:動作、行為の動きを描写、陳述できる動詞のこと。
〇所動詞:意図、感情、事象の状態、性質を描写、陳述できる動詞のこと。
この判定方法で生成した態動詞を常に確認しながら発話に心がけると素晴らしい
 文になるでしょうね。三上章自身は後年、所動詞論を言わなくなったそうですが
 、どうやら、所動詞の数が予想以上に多いことにおそれをなしたのかもしれませ
 ん。
だから、能動詞とか所動詞とかではなく、性質を表す「能動性/所動性」を考える。
〇「態の双対環」方式では、態に対して能動/所動の判定に次の2つを提起する。
(1)通常、各系の原形態:①能動態、①強制態、①使役態のみが、その動詞の能動性
 を持っている。(逆の表現で、能動性を持つ動詞が①原形態になれる)
(2)通常、各系の②可能態、③結果態、④受動態は、その動詞自身の能動性を表現す
 るのではなく、動作の「意図の状態や変化の状態・性質、結果の状態」を表現する
 もの。
判定の精度は100%ではないが、3系×4態=12態のうち、原形態が3〜4つ、
それ以外の8〜9個の態動詞は所動性が強い動詞だというわけですから、所動性動
詞の割合が多いのです。そのことは記憶に留めてほしい。

【所動性の態を二重態生成してはダメです】
・「状態や性質を表す動詞:所動詞性」を帯びる②可能態、③結果態、④受動態は、
 二重可能態や二重受動態などを生成すると、意味不明の動詞になります。
【誤用例】「行けれる」:行k・er・e[r]u:は二重可能態だからダメです。
・つい先日、テレビ放送で取材応答する40代男性が「〜行けられたので、よかった」
 と発言したのを耳にしてびっくりしました。
★「行ける」動詞に対して、少しでも「可能表現のにおい」を感じたら、可能態動詞
 ですから、さらに①原形態扱いして可能態に変身さしてはダメなのです。
・すべての可能動詞は本質的に可能態動詞ですから、「原形態あつかい」して二重態
 活用させるのはご法度です。
特に「行く」は他動詞へ交替しませんから、「行ける」が可能を表す動詞であると分か
りやすいはずなのに、誤用が多い。
しかも折目正しく「行けられた」には、「よくぞ、行かれましたねえ」と返すしかあり
ません。
〇態動詞の誤用をなくすために、「態の双対環」では「所動性」に注目することを勧め
 る。どんな動詞も能動性と所動性を含むから、両方の兼合いを測りながら言語運
 用できたらいいですね。

もう一つ重要な概念を「態の区分」では記述しておきたい。
【「r→s」交替と自律動作/律他動作の鏡像関係】
 第3章3.2節に一例を古語辞典から引いたが、辞典では「r→s」交替を気づいていな
 いが、動詞語尾の「る」と「す」の対比を説明している。(現代には適さないが)
〇「態の新式区分」としては、自他交替や態の接辞に付加される「r」と「s」に対して
 次のように概念化する。
・「r」:自律動作を表す。自発、自動詞、他動詞など自律的な動作をする。
・「s」:律他動作を表す。他を律する、他者に動作させる、他に任せる動作をする。
「態の区分」で言えば、
「r」の範疇は「能動系・双対環」であり、「s」の範疇は「強制系、使役系の双対環」
に相当する。
〇自身でする動作か、他にさせる動作かの区別が重要であり、自動詞・他動詞にこだ
 わらない。「r→s」交替とは、自律動作と律他動作の交替を意味する。
「r←・→s」交替が「自律←・→律他の入れ替り」となる実例を示す。
例:子音語幹動詞・歩くの場合:結果態←・→強制態、受動態←・→使役態。
 ・歩かる:歩k[]a(r←・→s)u:歩かす :aru/asu接辞内での(r/s)交替。
 ・歩かれる:歩k[]a(r←・→s)eru:歩かせる:同じく接辞内での(r/s)交替。
例:母音語幹動詞・食べるの場合:結果態←・→強制態、受動態←・→使役態。
 ・食べらる:食べ[r←・→s]a(r←・→s)u:食べさす :挿入音素[r/s]と接辞内
  (r/s)交替の2回あり。
 ・食べられる:食べ[r←・→s]a(r←・→s)eru:食べさせる:挿入音素[r/s]と
  接辞内(r/s)交替の2回あり。
この「入れ替り」はすべての動詞で成立つと思われるので、明文化した文法則に
することができる。
〇もちろん、最初から結果態接辞:aru、と強制態接辞:asu、が(r/s)交替の関係に
 あると説明しておけば済むことだが、誰も明言していなかった。
([r←・→s]交替と(r←・→s)交替の意味差はあるとしても、結局は「r/s」自律・律他
の交替に帰することでしょう)



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