2.3 【態接辞の種類と意味を考える】
2.3.1 【態接辞の種類】
態接辞は文語体時代から次の3つを基本にしていた。
 (態接辞が動詞生成したときの[挿入音素]を念のため付けて示した)
(1)可能態接辞:e[r]u(「える」):江戸期から可能用法に使われた。
(2)結果態接辞:ar[]u(「ある」):文語体受動接辞、
(3)強制態接辞:as[]u(「あす」):文語体使役接辞、
 これらは自他交替機能接辞からの再利用で、文語体から引き続き。
 現代口語体の態接辞としては、次の2つの合成接辞を加える。
(4)受動態接辞:are[r]u(「あれる」):結果+可能の合成接辞、
(5)使役態接辞:ase[r]u(「あせる」):強制+可能の合成接辞、
(文語体の使役表現は多いが、自他交替や態動詞を作る接辞は3つだけ。
 あとは助動詞の機能を受けるものも多かった)
学校文法では、口語体で合成した態接辞だけを口語体「態の接辞」と明示していま
す。しかし、すでに動詞単語のなかに「aru」、「asu」の形で組み込まれているので、
自然と現代でも生きています。やはり結果態、強制態として把握できるように工夫
したい。
★「態の双対環」では、前段の【動詞語幹+挿入音素】操作で、子音・母音語幹の差を
 補間するので、態接辞はいつも共通形態です。
 能動系接辞を並べて、「う」−「える」−「ある」−「あれる」と暗唱できます。
★結果態:「ある」、強制態:「あす」は、自他交替接辞としてすでに現用の動詞語彙に
 大量に含まれている接辞ですから、態文法の説明から簡単に除外してはいけません。
★また、結果態:「aru」→強制態:「asu」の成り立ちも、「r/s」使役交替により、
 「a(r)」→「a(s)」となった可能性を欲目で考えたりしています。 いずれにしろ、
 文法則のなかに残しておくべき接辞です。
「r/s」交替を起こす部位には、
①態接辞の内部:結果態「a(r)u」→強制態「a(s)u」、使役態「a(s)eru」での交替。
②母音語幹での挿入音素:「[r]→[s]」交替。②の交替は①交替とともに起きる。
 どちらの「s」音素も、「する」動詞の単音語幹音の「s」が使われたものでしょう。

2.3.2 【態接辞の意味】
 まず、文語体から引き継いだ接辞:可能態、結果態、強制態について考察する。
(1)可能態接辞:e[r]u(「える」):意味に3通りあり。
 説明しにくい態なのだが、動作の対象が入れ替る点に注目したい。
なるべく共通動詞:「〜をなす、なせる」を使って説明する。
①原動詞(自動詞/他動詞)の動作主体・対象を自分・動作主と他者、他物と入れ替え
 て、「〜をなす、なせる」で自他交替の動詞が作れる。
 (以下、対象を対自(・対主)、対他、対物で示す)
 (例:自他交替:「立つ」を(対物に)なす→(柱を)「立てる」、「折る」を(対物が)なす
  →(バットが)「折れる」、など) ※強制:「立たす、折らす」ではない。
②原動詞(自動詞/他動詞)の動作主体を「対自・対主」に限定して適用すると、
 みずから「〜をなせる」:可能を表現する動詞が作れる。(自他は不変)
 (例:個別可能:「立つ」を(対自が)なせる→(幼児が)「立てる」、「折る」を(対自が)
 なせる→(彼なら)「折れる」、など)
③原動詞(自動詞/他動詞)の動作主体を「対自・対主」に限定して適用すると、
 みずから「〜をなせる」:自発、意図のよわい変化、文語→口語変化の動詞になる。
 (例:口語変化:流る→「流れる」、離る→「離れる」、倒る→「倒れる」、など)

★可能態の本来の可能の意味:
 原動詞に対し「意思、意図として行動可能だ」と能力、性能状態を述べること。
 通常、意思動詞で「個人の、一回限りの動作可能」を表現する態である。
 (可能態は「個の可能」、受動態の可能は「多・複の可能」と覚えたい)
【例1】立t[]u:自→立te[r]u:他・対物/自・可能。
   建te[r]u:他→建te[r]e[r]u:他・可能。
→可能態接辞:eruの自他交替機能は、自→他、他→自の2面あり。
 「〜をなす」:自律動作で「なる」ように「する」:「na[r→s]u」=なす、の意味。
・自律自動詞の動作を「他物に対して同じ状態にならせる」→他動詞化。
 (例:並ぶ→並べる、育つ→育てる、痛む→痛める、浮ぶ→浮べる)
・自律他動詞の動作が「対物に自然発生的に起きる」→自発態化。
 (例:取る→とれる、切る→切れる、焼く→焼ける、折る→折れる)
→可能態接辞:eruの可能機能は、自他交替と併存する場合と可能だけの場合が
 あり。
 ・自他交替と可能が併存する場合:
 (例:立てる:交替・他/自・可能、並べる:交替・他/自・可能、)
 (例:取れる:交替・自発/他・可能、折れる:交替・自発/他・可能、)
 ・可能態が可能だけの場合:
  (例:行ける:無対自・可能、読める:無対他・可能、食べれる:無対他・可能
   来れる:無対自・可能、開けれる:有対他・可能、並べれる:有対他・可能、
   変えれる:有対他・可能、下げれる:有対他・可能、、、)
可能態接辞:e[r]u(「える」)=母音語幹・e+挿入音素[r]+原形音u。
〇「eru」に固有の意味がないのは、上記のような音素合成でできているからです。
古語時代から子音語幹動詞は五段活用で安定だが、自他交替のために語形変化した
動詞では、三段活用→二段活用→一段活用と変遷し江戸期になってようやく今の形
態の母音語幹動詞に辿り着いたようです。
「上一段の語尾形:i[r]u、下一段の語尾形:e[r]u」が母音語幹の語尾形です。
〇「態接辞」とみるか、「動詞活用形」とみるかで判断に迷う遠因がここにある。
 現代口語では、已然形を認めていないので、「可能態」とみなす必要がある。
・自他交替接辞の組み合せとして自動詞:上(ag・aru)/他動詞:上(ag・eru)の
 (aru/eru)対向の数が多いので汎用性の高い態接辞であるのは間違いない。

(2)結果態接辞:ar[]u(「ある」):文語体受動態、現代でも重要な接辞。
 自他交替機能も態機能も「動作結果が在る、有る、ある」の意味を表す。
 自動詞的になる性状表現機能で「〜になる、〜がある状態になる、
 動作実績が有る、動作結果を有する・受ける、」などを意味する。
【例2】集tum[]e[r]u:他→集tum[]ar[]u:自・動作結果/事象・結果状態。
・「集める」動作をして、結果として「集まる」状況になる。
 もちろん、「集まる」途中の動作を含んだ動作動詞と解釈してもよい。
・「休める」、「つかむ」→「休まる」、「つかまる」も動作結果の状態だけではなく、
 「つかんで、安定させる」自律動作を含んだ動詞と解釈してもよい。
・動作動詞と解釈して「休まれる」「つかまれる」と言えるが、受動態と同形になる
 から、可能表現だけだと思い込んでいては誤解の元になる。
 (例外的:つかまる→つかまられる:若いママがスカートのすそを幼児に〜)
・同じ受動態でも「つかまれる」←「つかむ」原形態、「つかまられる」←「つかまる」
 原形態との違いがある。これを解説するには「態の双対環」を使うのが一番納得し
 やすいだろう。

(3)強制態接辞:as[]u(「あす」):文語体使役態、現代でも重要な接辞。
①自他交替機能:他を律する動作をする。(態機能も同じ)
 ・対他が物なら自律他動詞、対物他動詞。
 ・対他が有情・人ならば強制動詞。
②態機能:強制態:相手に対しての強制動作を表す。
  (強制、許容、許可、放任も含む)
【例3】動k[]u:自→動k[]as[]u:他・対物対人。
 食べ[r]u:他→食べ[r→s]as[]u:他・対物、・対人強制許容。
 挿入音素[r]が強制・使役系に替わるとき、挿入音素[s]に交替するのは、
・動詞原形の語尾「る:r」が自律動作を示唆するもに対して、
・他を律する動作、強制動作は「する」動詞の強制態:「さす:S[]asu」を連結させて
 作り出す。
★「食べ・さす」:二語連結の方程式は「【第1母音語幹+第2語幹:S+挿入音素[]】+態
 接辞:asu」で表される。つまり、「食べ・S[]asu」の形態なのだろう。便宜上、
 [r→s]交替として挿入音素の入れ換えを想定したが、語幹の連結で挿入音素が不
 要になったと解釈するのも合理性がある。
・自律動作を優先する例:「蒸す」動詞は対人強制をさけるため、意図的に
 「蒸s[]asu」ではなく、「蒸[r]asu」と対物他動詞化している。
 これも「r/s」交替の意識だ。
・「休ます」:子音語幹の強制態は「休m[]asu」の形態だから、第2語幹を使わずに
 態接辞を直接接続できる。

 次に(4)、(5)の意味について説明します。
(4)受動態接辞:are[r]u(「あれる」):
口語文法での受動態接辞。結果態の口語版(結果+可能の側面あり)
受動態接辞:「あれる」:動作結果が「在る、有る、ある、あり得る」を意味する。
動作の結果を「ある、あれる」と描写するが、自由時制なので未来の動作結果も
推測描写できる。
★動作、行為を「発話の場」に居合せた当事者達がそれぞれの視点で描写する。
 動作を客観抽象化して多面的に表現する。
①動作主主語の受動態:自己の自律動作の完了・実績を描写。
 動作結果が有る→結果可能、実績可能、経験実績、(動詞+have:完了形)。
②被動作者主語の受動態:他者の自律動作の結果が自己に及ぶを描写。
 動作結果が在る→受身(直接・間接)、(動詞+be:受身形)。
③事態主語の受動態:事態が起きた状態を描写。
 動作結果、状態がある→自発、(動詞+在る:自発)
④他者発話による動作主主語の受動態:行為、動作があることを敬って描写。
 動作主動作(結果)を敬意描写→尊敬、(動作+あらす:尊敬)
★当たり前すぎて、言い忘れそうです。
〇受動態は、「動作(の結果)がある」ことを表現する動詞ですから、自動詞でも
 他動詞でも生成できる。強制動詞、使役動詞も「態の双対環」を作れる。
〇受動態は「繰り返しの、多人数の、動作結果を総じて」表現できる。
〇受動態構文の主語・主体には、①、②、③、④のように場面に登場する人・物の誰
 でもが該当する。(⑤目的語が主語になっても構わない)
〇受動態は、「動作、行為が存在する」ことを(多方向・客観的に)述べる動詞であ
 り、「迷惑の受身」や「喜怒哀楽の情動表現」だけにこだわる必要はないです。
 (受動態構文に後続して迷惑・情動を吐露する文節が作りやすいと言えますが)

【例4】考e[r]u→考e[r]are[r]u:
 考える結果物が有る、考える実績物が有る。
 【比較】考e[r]e[r]u:考えれる:無意味な描写。頭脳の動作は年中無休。
  結果物限定で発話すべき。
・もどるの受動態→もどr[]are[r]u:もどる結果有り、実績あり、戻るを完了した。
 【比較】可能態:もどr[]e[r]u:動作意図で可能を言う。
  ・もどr[]e[]ない:動作を起せない。
  受動態の打消し→・もどr[]are[]ない:動作の努力をしても結果に到達できない
  人為を超えた不可能を描写する。
 (多数の日本語母語者は可能態と受動態実績可能表現を区別し使い分けている)

(5)使役態接辞:ase[r]u(「あせる」):
 口語文法での使役態接辞。(強制可能態と同形態)。
 使役態接辞:「あせる」の意味:他に動作をさせる動詞を生成する。
【例5】使w[]as[]u→使w[]as[]e[r]u:
 強制可能態が口語体の使役態へ使われるようになった。
 (強制態と使役態の使い分けは第3章に解説します)
・強制系「立たす」→「立たされる」、使役系「立たせる」→「立たせられる」
 現在でも強制系と使役系の動詞は併用されているが、学校文法では使役系を
 進める立場のようだ。
 併用を支持する立場からすると、可能態と受動態の場合と同様に、併存と意味の
 差を明確にすることを同時にやるべきだろう。
・強制接辞:「あす:asu」は、対他物、対他人に動作を強制するが、特に対人には、
 その人の自律動作性に任す(結果は求めるが)強制意図である。
・使役接辞:「あせる:aseru」は、ほぼ強制と同じだが、対他の強制自律動作を(仲介
 、もしくは手を貸すような)忖度しての強制意図である。
 (個人的な語感差だが、以下の単語例からの類推もある)
・見る→mi[]seru、着る→ki[]seru、乗る→no[]seru、寝る→ne[]seru:など、
 意味深長で相手と自分との共同の動作を想定。
・「任す:放任的→任せる:分担的」。 「立たす:規律的→立たせる:指導・介助的」。
・「だます:思惑悪用→だまかす:周到誘導」。 「寝さす:許可的→寝かす:睡眠誘導」。
〇だまかす、寝かす、笑かす:「〜[k]asu」では、意識的に挿入音素[k]を付加して
 強制態にしたもの。
[r]:自律性、[s]:他が自律性発揮を意味する音素と見なすので、自律性を忖度しな
 い表現のために[k]が意識されたと思う。
・だまされる→「だまかされる」のほうが、自律意識なくだまかされたという言訳が
 しやすい。

 以上、態構文(主語は何か)と態接辞の意味を要約して示す。
〇原動詞に対して、態接辞が付加する動詞性意味を一覧する。
略号:構文主体となるもの:動作主→動、対象物→物、対象者→他、事象→事、
・原形態(u):「〜をする」
 ①(動)原動詞:そのままを実行する。
・可能態(e[r]u):「〜をなす、なせる」←「なるようにする」←「na[r→s]u]
 ①(動・対物)他動詞化交替:例:立てる、開ける、並べる、続ける、
 ①(動・物)自動詞化交替:例:出る、逃げる、枯れる、切れる、割れる、
 ②(動・物)意思可能:例:立てる、開けれる、行ける、見れる、食べれる、
 ③(動・対自)自発、口語変化、「s→r」交替含む:例:倒[s→r]eru、汚れる、離れる、
・結果態(ar[]u):「〜がある・在る・有る」
 ①(動)動作結果:例:助かる、休まる、戻らる、
 ②(他・物)受身表現:例:立たる、打たる、呼ばる、
 ③(事)結果状態:例:おこなわる、決定さる、始まる、おわる、
 ④(他発話・対動)尊敬:例:話さる、なさる、なはる、
・強制態(as[]u):「〜をさす」←「s[]asu」
 ①(動・対物)他動詞化交替・原動詞を他に加える:例:動かす、のばす、遅らす、
 ②(動・対他)強制化交替・原動詞を他にさす:例:読ます、書かす、
   開け[r→s]asu、食べ[r→s]asu、
・受動態(ar・e[r]u):「〜があれる、在れる、有れる」
 ①(動)結果・実績可能:例:起きられる、行かれる、食べられる、出られる、
 ②(他・物)受身表現:例:盗まれる、踏まれる、呼ばれる、立たれる、立てられる、
 ③(事)結果状態:例:完成される、行われる、
 ④(他発話・対動)尊敬:例:話される、休まれる、読まれる、思われる、
・使役態(as・e[r]u):「〜をさせる」
 ①(動・対他)使役化交替・原動詞を他にさせる:例:読ませる、書かせる、
   開け[r→s]ase[r]u、食べ[r→s]ase[r]u、


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