2.4 【「態の双対環」を考える】

【態の双対】とは、
対抗関係にある態の組が2つ、存在するということ。
①能動態←・→受動態の対向関係が1つ、:動作方向性に対向関係がある。
②結果態←・→可能態の対向関係が2つ目:動作や状態変化の開始・結果の対向関係。
・①能動態と受動態の対向関係には異論ないでしょうが、日本語の受動態には多く
 の意味があり、動作方向の対向性は主に受身表現で感じるものです。
(それ以外、可能・尊敬表現では方向性による対向関係を感じない。本質的に受身も
動作方向性に注目するのではなく、動作結果の在り場所・状態に注目することか)
・②結果態と可能態の対向性には「動作方向性」でなく、「動作の性質・状態:所動性」
 に対向要素があります。
★可能態と結果態、受動態は動作性が弱く、性質・状態(所動詞性)を述べる側面が
 あるから、可能態の「やればできる状態・性能」と結果態の「やった動作・結果の
 状態」の対比関係と考えるのが妥当でしょう。
・可能態は、
 意思動詞では動作可能を、アスペクト的には動作を始める、変化がおきる、
・結果態は、
 動作の結果、アスペクト的には動作結果の状態、変化が起きた結果を、描写する。
 どちらの態も構文中では動作主だけではなく、事象や被動作者を主語にすること
 があります。
 (「アスペクト」に分類し「態の区分」から外すのは間違いだと考えます)
〇初めて「態の双対環」の説明を受ける方には、
 結果態←・→可能態の対向関係なんて認めることができないと思います。
・結果態は、行われた動作が目の前にあり、あるいは動作結果を想像させる態で、
 受動態と同類です。
・可能態は、動作が行えると意思で判断したときに表出する個人的な態であり、
 原形態と同類ですが、個人の意思、意図で動作をやれると判断した態です。
これらを組み合わせて「態の双対環」になるわけです。

【態の双対環の構造図】
 能動系「双対環」、強制系「双対環」、使役系「双対環」を示す。相似的な構造を持つ。


【双対環】とは、
 態の双対:①能動態と受動態の対向軸を縦に配置し、②結果態と可能態の対向軸を
横に配置・組み合わせると、円周上に態動詞4つが並ぶという図柄を想定したもので
す。「双対環」の真上には、能動性のある自律動詞、または、他を律する強制動詞、使
役動詞を置きます。
★【態動詞生成の方程式】に従って動詞語幹+[挿入音素]を確認してください。
・子音語幹+[]、母音語幹+[r]が能動系原形です。強制、使役では母音語幹+[s]に
 交替させる。(挿入音素の[r:自律動作→s:律他動作]交替です)
★真上に自律動詞を置けば、能動系「双対環」になり、
 真上に強制動詞を置けば、強制系「双対環」になり、
 真上に使役動詞を置けば、使役系「双対環」になります。
〇対象の動詞が何か分からない場合でも、まず真上に置いて動詞原形・終止形にす
 る。順次、可能態、結果態、受動態の接辞を付加し態動詞4つを「双対環」に置きます。
〇完成した「双対環」の4つの態動詞が意味を持ち、それぞれの態解釈ができるなら
、真上に置いた動詞が能動性のある「辞書の見出し語になりうる」単語だと分かります。
〇強制動詞、使役動詞は「辞書の見出し語に載らない」ので、自律動詞に強制態接辞
、使役態接辞を付加して生成することになります。
 (挿入音素のr/s交替を忘れずに)



【「態の双対」簡易文字列表記】
 「態の双対環」を図形でなく簡易的に文字列表記で記述する方法は、すでに
1.2【無対自・他動詞の使役交替の方法】の例4、例5に例示した。
手早く態動詞を調べたいとき、簡易文字列表記で「双対環」を書き出してみるとよい。
「双対環」を書き出すのは、「態の新式区分」を見渡す操作をしていることに相当する。
では、実際の簡易文字列表記の演習を兼ねて、課題考察してみます。
【例1:子音語幹動詞】:「す」語尾動詞の例:残す。
・能動系:残s[]u/残s・e[r]u/残s・ar[]u/残s・ar・e[r]u。
・強制系:残s・as[]u/残s・as・e[r]u/残s・as・ar[]u/残s・as・ar・e[r]u。
・使役系:残s・ase[r]u/残s・aser・e[r]u/残s・aser・ar[]u
 /残s・aser・ar・e[r]u。
〇「す」語尾の受動態:残される/残さされる/残させられる、なんだか重苦しい
 語感です。
★特に、「残される」は受身描写が似合うのだが、自律動作の可能表現には感じにくい。
自律動作の可能表現には、「残せる」が単純明快ですね。可能動詞は「す」語尾動詞
を救済するために始まったのではないだろうか。(かも知りません:自律動詞)

【例2:母音語幹動詞】:「せる」語尾動詞の例:見せる。
・能動系:見se[r]u/見ser・e[r]u/見ser・ar[]u/見ser・ar・e[r]u。
・強制系:見se[s]as[]u:(r/s交替)/見ses・as・e[r]u/見ses・as・ar[]u
 /見ses・as・ar・e[r]u。
・使役系:見sesase[r]u/見sesaser・e[r]u/見sesaser・ar[]u
 /見sesaser・ar・e[r]u。
〇「せる」語尾には「s」のあとに「r」があるおかげで、受動態:見せられる/見せさ
 される/見せさせられる、多少ぎくしゃくしますが、受身にも自律可能にも感じ
 られます。
★可能態:見せれる、(使役態化)見せさせる/見せさせれる、も自律的可能表現の
 語感があります。
 (見せさせれる:甲が視るために乙が資料を掲げるように(丙に)させることを
 主体が為しえる)

このように、態の双対環をきちんと展開していけば、態のすべてを広げて検証する
ことができます。

【「態の双対環」を能動系、強制系、使役系の3本立てにする理由】
 「態の双対環」の環状図式にしろ、簡易文字列表記にしろ、
基本「双対環」:(原形態−可能態−結果態−受動態)と想定すれば、
・能動系「双対環」=能動態×基本「双対環」、
・強制系「双対環」=強制態×基本「双対環」、
・使役系「双対環」=使役態×基本「双対環」、と概念化してもよいだろう。
つまり、「双対環」は相似的である。けれども、独立した3本立て「双対環」である。
★3本立ての理由は、いずれの「双対環」でも最も能動性を示す態は原形態であり、
 他の可能態、結果態、受動態は原形態に対する視点を変えた態表現です。
 つまり、一つの「態の双対環」は、それ自身で環状の親和的な閉鎖的な空間を形成
 している。(態を自在に無意識に変更できる状態)
 一方、能動系から使役系「双対環」へ連結させるときには、別空間への飛び移りの
 ような感覚になります。例文をあげて考察しよう。

【例3:「態の双対環」飛び移り】
・「滝に打たれさせられる」→滝が【打つ(行為・状態が我に)有り】、(先達が)それを
【させる(計らいの結果が我に)在る】。→滝に【打たれ】、(先達に)【させられる】。
・受動態【打たれ】、使役受動態【させられる】が連結している一語と見てもよいし、
「【打たれ】るように、【させられる】ことになったのさ」と二語あつかいにもできる。
「双対環」内での態は、
・能動系:【打つ(行為・状態が我に)在り】→受動態:【打たれ[r→s]】、【打たれ・て】、
・使役系:(先達に)それを【させる(計らいの結果が我に)在る】
 →使役受動態:【aser・areru】、または【させ[r]areru】という暗黙の文法則が働き
 、「双対環」内では簡単に態生成で一語化する習慣が身についている。
★あ、ちょうど都合のよい例文でしたね。
・受動態:【打たれ[r→s]】+使役受動態:【aser・areru】と一語化するのと、
・受動態:【打たれ・(て形連節)】+使役受動態:【させ[r]areru】という緩やかな
 二語連結化の方法が次第に統合の方向へ変化して、自律→律他の「r→s」交替で
 一語化につながったのかもしれません。
〇つまり、「双対環」飛び移りの場合、あるいは飛び移りでなく直接強制態、使役態
 になる場合も、母音語幹動詞は「r/s」交替を生じます。この「r/s」交替には2通り
の解釈ができるわけです。
①標準的「r/s」交替:一語的な態生成の解釈。(暗黙的な「r/s」交替)
 打t[]are[r→s]+ase[r]u、食べ[r→s]+ase[r]u、見[r→s]+ase[r]u、など。
②変則的な二語連結で態生成と解釈。(方程式で一語統合を解釈する)
 母音語幹動詞が「さす:S[]asu/させる:S[]aseru」と一語統合するから、
 態生成の方程式=「【「母音語幹+S語幹」+挿入音素[]】+強制・使役接辞」と解釈
 できる。(S語幹は、する動詞の使役形:さす、させるの単音語幹です)
★打t・are(r→S)[]ase[r]u、食べ(r→S)[]ase[r]u、見(r→S)[]ase[r]u、などで
 表現できる。
母音語幹の原形語尾「r」を止めて「する」語幹の単音語幹「S」を結合して連結語幹と
見なしたわけです。これで強制・使役系の態方程式ができる。
〇「す(る)」動詞の強制態:「さす」、使役態:「させる」の連結性能が高いので、いろ
 いろな場面で機能しているわけですね。
 本題にもどります。
★【打つ(行為・状態が我に)在り】、【させる(計らいの結果が我に)在る】ともに、
・動詞連体形:打つ、させる、が「在る」を修飾する形式です。何歩か譲って、態が動詞
 活用の一部だとしても、未然形につながるのではなく、連体形に密結合するのだ
 と理解するほうが合理的です。

【「態の双対環」を広めたい理由】
・態の双対環を使いこなすには、「態の接続方程式」を一読して感得したうえで、
 たくさんの動詞で双対環を試してほしい。
・日常の会話で態の使い方に疑問が湧いた場合、その動詞を態の双対環にかけて、
 全部の態を派生させてみると自分自身で正誤が見つけられるはずです。
 (かもしれませんと言わず)
・あるいは、学習指導の際に、態の双対環を全部の態で書き上げて、正誤を確実に説
 明して相手が納得しやすくなるはずです。
・「ら抜き言葉」が論理的な動詞単語であるとか、余計な「さ入れ言葉」や「れ足す言
 葉」は使用警戒すべきだと感じるようになるはずです。
理由を整理し直して箇条書きにする。
①「態の双対環」を共通の「考える道具」としたい。
 それが態文法を見直す第一歩です。
②「態生成の方程式」を共通の「判定表記法」としたい。
・「態接辞」そのものを3項方程式で理解してほしい。
 可能態接辞:e[r]u→接辞語幹(e)+挿入音素[r]+原形音(u)、
 結果態接辞:ar[]u→接辞語幹(ar)+挿入音素[]+原形音(u)、
 強制態接辞:as[]u→接辞語幹(as)+挿入音素[]+原形音(u)、
 受動態接辞:ar‐e[r]u→接辞語幹(ar‐e)+挿入音素[r]+原形音(u)、
 使役態接辞:as‐e[r]u→接辞語幹(as‐e)+挿入音素[r]+原形音(u)、
※可能強制接辞:e[r→s]as[]u→接辞語幹(es‐as)+挿入音素[]+原形音(u)、
※結果強制接辞:ar‐as[]u→接辞語幹(ar‐as)+挿入音素[]+原形音(u)、
※受動強制接辞:are[r→s]as[]u→接辞語幹(ares‐as)+挿入音素[]+原形音(u)、
 使役強制接辞:ase[r→s]as[]u→接辞語幹(ases‐as)+挿入音素[]+原形音(u)、
 強制使役接辞:as‐ase[r]u→接辞語幹(as‐ase)+挿入音素[r]+原形音(u)、
・日常の日本語としては、受動使役受動態接辞(3接辞連結)なども使用するのだ
 から、[r→s]交替を含めても「すご技」文法ですね。
(本来、新しい接辞は、最後の原形音(u)の場所に追加するように表記法すべきです
が、接合した結果の形態を表記してあります)
③態の「双対環」で3区分:能動系・強制系・使役系を連携して理解してほしい。
★前項に※印を付けた接辞合成は、通常事態では起きない事象です。
 「双対環」のなかで、動作性・能動性を持っているのは原形態だけで、他の可能態、
 結果態、受動態は「動作による性状・変化状態」を述べる所動性の動詞です。
 所動性が強い可能動詞を二重可能態や可能受動態、可能使役態などに合成しても
 に意味をなさない。(態の試行錯誤をするにも、「態の双対環」が道具になる)
(三上章文法:能動詞/所動詞の区別:所動詞を受動態にすると意味不明となる)
〇「r→s」交替で能動系から強制・使役系へ移行する仕掛けにも感得してほしい。
 結果接辞:aruが(r→s)交替して強制接辞:asuとなったことを密かに理解して
 おくだけでも心強い。
・考えらる:考え[r→s]a(r→s)u:考えさす、
・考えられる:考え[r→s]a(r→s)eru:考えさせる、という鏡像関係にある。


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