3.2【結果態と強制態を再評価する】
 国語辞典での態接辞の取上げ方は、おおよそ付録ページに動詞、形容詞、形容動
詞、助動詞活用一覧表を置き、その助動詞の表枠内で説明することが多い。
・多くの国語辞典で態接辞は使役、受動として助動詞一覧表の最初枠に置かれる。
〇口語体の一覧表では、「受動態、使役態」が最初枠にある。
文語体の一覧表も併せて載せる形式が多いから、「結果態、強制態」も対照して確認
できる。(文語時代でも受動、使役の機能接辞として汎用に使う概念があった)
・結果態接辞:「ある:aru」が変形して、「る/らる」で文語体一覧表に載る。
・強制態接辞:「あす:asu」が変形して、「す/さす」で文語体一覧表に載る。
・受動態接辞:「あれる:areru」が変形して、「れる/られる」で載る。(口語体)
・使役態接辞:「あせる:aseru」が変形して、「せる/させる」で載る。(口語体)
現代では、結果態、強制態は動詞単語に組み込まれた形態で見ることが多いが、
まだ、態としても使う場合もあり大事な接辞です。
★「態の双対環」方式では、態動詞を生成する機能接辞は「動詞の自他交替機能
接辞」を再利用していると思考します。
〇すでにで記述したように、
・結果態接辞:「ある:aru」は文語体での受動態接辞、
・強制態接辞:「あす:asu」は文語体での使役態接辞、です。
文語体の時代でも「自他交替機能接辞が態の接辞に再利用されていた」のです。
自他交替の機能のおかげで現在の有対動詞が豊かになったし、態も確立されたのです。
この事実を日本語文法のなかでしっかり機能と意味を明示して、確実に継承してい
くべきだと思考します。動詞単語だけが残るのではなく接辞の機能も継承したい。
★現代の文法学の判断では、長い間、動詞活用と態生成を混同しています。
 「ある」の「あ」、「あす」の「あ」を動詞未然形の「あ段」に当ててしまい、残りの受動
 :「る」、使役:「す」に意味を求めてきました。
〇本来の接辞は、「ある」、「あす」であり、意味も「ある」、「あす」で説明するように
 正しく継承していくべきでしょう。

【結果態、強制態の存在証明】:未来に引き継ぐために
従来の文語文法を伝える辞典から結果態(当時の受動態)と強制態(当時の使役態)
に関する解説を調べてみた。
・『岩波古語辞典補訂版』:大野晋他2者:1974年12月第一版、1990年2月補訂版、
2000年10月補訂版、の付録には「基本助動詞解説」が詳細に記述されてあるが、
接辞:「る」、「す」の説明だけ抜き書きすると、
>可能、受身:る、らる、につく「る」は、:自然展開的、無作為的であることを動詞に
 追加する役目を帯びている。<
〇考察:自然物の主語文をさける日本語の動詞を殊更に「自然展開的と見なす」のは
 若干卑怯です。
>使役:す、さす、につく「す」は、:人為的、作為的の動詞の意を示す。
 と述べてある。(広い意味で潜在的な文法則だろう)<
〇考察:人為・作為的というだけでは、能動的以上の意味:「律他的」を示唆できない。
【「態の双対環」での「る/す」対向関係の捉え方】
 「態の双対環」方式では、接辞に含まれる音素の「る/す」に対する対向関係を現代
的、現実的に解釈し直して、次のように解釈する。
〇動詞語尾:「る」、「r」は、自律動作を表す、と捉える。
  (自動詞、他動詞も含む:自己発動の動作)
〇動詞語尾:「す」、「s」は、他を律する動作を表す、と捉える。
  (他を強制、使役する動詞、対物他動詞を含む)
すでに第2章でも自律動作/律他動作の対向関係を「r/s」交替などの表現で利用し
ている。(潜在法則の強調化、拡張化:態だけでなく動詞全体に適用する意気込み)
〇能動系→強制系へ態変換のとき、母音語幹に挿入音素「r→s」交替させて強制態
 接辞につなぐことが必要な理由は、この「る/す」対向による要請だが、記すれば
・自律動作を表す「r」を止めて、「さす/させる」の単音語幹「s」に置き換える操作を
 して強制態、使役態へ移行する。これが明文化した「r/s」交替法則です。
★結果態接辞:aruに対して「r→s」交替を働かして「aru→asu」としたのが強制態
 接辞:asuである。(確度の高い仮説だと思う)
〇「r→s」交替で、結果態—強制態、受動態—使役態がきれいに入れ替わるのを
 見てください。(挿入音素と接辞内の「r→s」交替が同時に起きている)
・食べらる:−[r]a[r]u—食べさす:−[s]a[s]u、
・食べられる:−[r]a[r]eru—食べさせる:−[s]a[s]eru、
・歩かる:k−a[r]u—歩かす:k−a[s]u、 
 歩かれる:k−a[r]eru—歩かせる:k−a[s]eru、
〇動詞を区分するのに、「作為のある/なし」で区別するのではなく、「自己の能動動
 作か/他を動かす強制動作か」で区別すべきだという思考法です。
(潜在法則を顕在化して、自他交替接辞を学んで自・他動詞、態動詞を理解するほう
 がよい)
〇「態の双対環」で結果態、強制態と命名して「ある」、「あす」接辞を組み入れるの
 は、多くの既成動詞に自他交替機能として組み込まれているし、これからも態接
 辞として暗黙のうちに使われる可能性が十分あるからです。

【結果態、強制態の意味の証明】:未来に引き継ぐために2
★結果態接辞:aruは、「動作(結果)が「ある」」ことを表現する動詞を生成する。
〇動作の結果が「ある」、「なる」と着眼してもよい。
  動作結果を表す状態動詞、動作結果をめざす動作動詞の両面がある。
  動作結果を述べる機能だから、他動詞だけでなく自動詞でも結果態、受動態が
  生成できる。(詳細は次項で説明する)
★強制態接辞:asuは、「動作を相手・他にさせる」ことを表現する動詞を生成する。
〇強制として「さす」、「なす」ように仕向けると想定してもよい。
  強制意思の程度により、現実の場では動作の強制、許可、許容、放任などの意味
  になる。
<前項で見た「r/s」交替による結果態/強制態の入れ替わり、受動態/使役態の
入れ替わりが現実の動作状態と如何に関わっているのか。 入り口に立ったばかり
の考察ですが、少しだけ思考実験して記述します>
〇現実世界の動作を表現する方法として、
 「自律動作の世界」と「他を律する動作の世界」とに、二分して考える。
・自律動作の世界:自分の自律的な動作、他人の自律的な動作や、それに起因する自
 律的な状態を描写・表出する世界。
・律他動作の世界:他を律する動作、強制・使役をする動作、自分が強制を受ける動
 作や、それに起因する自律的な状態を描写・表出する世界。
・「自律世界」と「律他世界」がちょうど「動作の鏡像空間」の関係にあるのだろう。
・「態の双対環」に引き当てて考察すると、自律世界=能動系「双対環」であり、律他
 世界=強制系、使役系「双対環」に相当する。
・強制態、使役態は、「双対環」の原形態で能動性が高く、意味も動作に重点がある。
・一方、結果態や受動態は、自分の動作結果や、他人の動作結果を表現する両面が
 あり、また、動作性を描写するときと、結果の状態性を描写するときがある。
 自分・他人×動作性・状態性=4通りの描写、解釈が成り立つことになる。
(強制結果態、強制受動態、使役結果態、使役受動態も4通りの描写、解釈が成立つ)
〇思考実験は、ここで中断しておきます。


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