1.1【有対自動詞・他動詞の自他交替の方法】=有対自他動詞が多い
 日本語の動詞にある特長は、自動詞と他動詞が形態的に対構造で使われる傾向が
強いことです。有対自他動詞と呼び、自他のどちらが根源動詞か迷うものもありま
すね。
有対自他動詞をローマ字つづりで音素解析していくと、対ごとに共通の動詞語幹と
自他交替のための接辞が分かります。(左頁の表を参照する)

【例1:共通根源動詞+母音始まり自他交替接辞】ローマ字つづりで示す。
 自他、他自混在。
・掴[tukam]u/[tukam]aru、塞[husag]u/[husag]aru、
・上[ag]eru/[ag]aru、休[yasum]eru/[yasum]aru、
・立[tat]u/[tat]eru、届[todok]u/[todok]eru、
・取[tor]u/[tor]eru、焼[yak]u/[yak]eru、
★−↑交替接辞:u/aru/eruで、接辞中に「s」を含まない形式:4組あり−−
・出[d]eru/[d]asu、逃[nig]eru/[nig]asu、
・動[ugok]u/[ugok]asu、減[her]u/[her]asu、
★−↑交替接辞:u/eru/asuで、接辞「s」を含むほうの動詞は他動詞−−
 ローマ字つづりの接辞:uは動詞終止形の共通語尾音です。
 例1では自他交替接辞が母音始まりの「eru、aru、asu」を取り上げました。
 この3つの接辞は重要な機能があり、後述の「態の接辞」として再利用します。
(注:aruは文語受動態、asuは文語使役態に使う接辞。また、aru/eruの自他交替
派生例は他の例より断然多く存在します。ですから「eru」も重要接辞だと直感しま
す。しかし従前では自動詞にも他動詞にも交替機能を発揮する変種あつかいでした)

【例2:共通根源動詞+母音始まり自他交替接辞】単語特例の接辞。
 (r/sの対向関係)
・伸[nob]iru/[nob]asu、生[ik]iru/[ik]asu、
・落[ot]iru/[ot]osu、滅[horob]iru/[horob]osu、
 これらの単語には、古語:伸nobu、生iku、落otu、滅horobuという根源動詞が
 あり、変遷のなかで自他交替の対動詞が生まれてきたのでしょう。
★−↑交替接辞:iru/asu/osuで接辞「s」を含む動詞が他動詞です−−

【例3:共通根源動詞が母音語尾+子音始まり自他交替接辞】
  (ru/su、ru/seruの対向関係)
・倒[tao]reru/[tao]su、離[hana]reru/[hana]su、
・起[oko]ru/[oko]su、渡[wata]ru/[wata]su、
・寝[ne]ru/[ne]seru、浴[abi]ru/[abi]seru、
(見[mi]ru/[mi]seru、着[ki]ru/[ki]seru、)
 これらの単語には、古語ではru/su語尾の自他対応から段々と変化してきたよう
 な感じを受けます。
★−↑交替接辞:reru/ru/su/seruで接辞「s」を含む動詞が他動詞です−−

【分かったこと:有対自他動詞の生成法】
 自他交替の動詞についてローマ字解析で語幹と接辞のつなぎ方を調べて分かる
ことは、
①共通根源動詞が子音語幹であることが多く、それにつながる自他交替接辞は
 母音始まりである。
②共通根源動詞が母音語幹である場合は、それにつながる自他交替接辞は
 子音始まりである。
③有対自他動詞の接辞側に「s」を含む動詞は、他動詞である。
 (逆順の、他動詞は「s」付きである、それは偽論法です)
④母音語幹の有対自他動詞では、接辞側に「r」が付けば自動詞、「s」を含むほうは
 他動詞という潜在的な「r/s」対向関係がある。
【生成後の動詞は、接辞の形態で子音語幹、母音語幹が変化する】
 自他交替で派生した動詞はその接辞を含めた個々の単語として使われます。
・上[ag]eru→上げるの新語幹[ag・e]ru、母音語幹に変わります。
・上[ag]aru→上がるの新語幹[ag・ar]u、子音語幹です。
・生[ik]iru→生きるの新語幹[ik・i]ru、母音語幹に変わります。
・生[ik]asu→生かすの新語幹[ik・as]u、子音語幹です。
・落[ot]iru→落ちるの新語幹[ot・i]ru、母音語幹に変わります。
・落[ot]osu→落とすの新語幹[ot・os]u、子音語幹です。
・浴[abi]ru→浴びるの語幹[abi]ru、母音語幹のままです。
・浴[abi]seru→浴びせるの新語幹[abi・se]ru、母音語幹に変わります。
派生動詞が実際に活用する段階では新語幹を正確に見極めて、次段階の態接辞、
助動詞との接続を成し遂げていかなければなりません。

〇態文法:「態の双対環」方式の考え方を事前予告風にチラ見せすると、
・新語幹の([ag・e]r)、([ik・i]r)、([ot・i]r)、([abi]r)、([abi・se]r)の
 カッコ範囲を、動詞原形語尾子音=【動詞語幹+挿入音素】と捉えれば、子音語幹
 並みにあつかえる、という文法則です。
 そうすれば、「母音始まりの態接辞」との接続がすべての動詞でうまく行きます。
〇なお、強制態、使役態接辞との接続では挿入音素「r」を「s」に交替させて、
 ([ag・e]s)asuのように、([ik・i]s)、([ot・i]s)、([abi]s)、([abi・se]s)とすれば
 、うまく行きます。
 これを「r→s」交替と呼びますが、母音語幹動詞では、「上げ・さす、生き・させる、
 落ち・さす、浴び・させる、浴びせ[r→s]aseru」のように、「する」動詞の強制・使役
 形:さす、させる、と連結して態を生成します。
 [s]asu、[s]aseru、の[s:単音語幹音素]を挿入音素に組み合わせたものが、母音
 語幹動詞で発生する[r→s]交替です。


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