2.1 【態動詞生成の方程式】
 動詞用言の活用は発話の瞬間で決るように思えるが、
(1)自他交替動詞生成は動詞語彙として辞書に登録がある単語を想定するが、発話
 者が発話時点などで創作する場合もあり得る。
(2)態動詞の生成も既得の学習済みの単語が多いが、発話時点で最適な態表現を派
 生させての発話もある。
(3)動詞活用の段階は当然、発話時点だ。(1)(2)段階をへて選択した動詞に活用接
 辞、さらに後続して助動詞接辞を付けて文章化する。

(1)、(2)、(3)の段階で有限の時間幅があっても、時間の逆戻りはできない事象
 です。
ここで態の接辞、活用の接辞、助動の接辞についての考え方を整理しておきたい。
上記のように時間順で見れば、態は一番目で、助動より早い。
態接辞の意味の上でも、助動詞のあつかいではなく動詞構造に組み込まれるものだ
との認識が必要なのです。
★『国語学原論(上)』時枝誠記:態接辞についての要旨引用>
>「る」「らる」「す」「さす」など受身以下のものは、国語学史上大体において辞として
 取り扱わないのを原則とするのであるが、大槻博士の広日本文典以来、これを助
 動詞として、古来の辞の範疇に入れてから、今日においては動かすことが出来な
 い様に考えられるに至ったのであるが、詞辞の本質から見てこれを辞から除外し
 なければならないし、又そうすることが国語の文法組織を確立する為にも必要な
 ことである。<
<引用終わり。
★(角川『国語大辞典』時枝誠記他昭和57年12月初版、態接辞は接尾語・見出し語
 扱いです。助動詞一覧には掲出しないという独自形式)
〇態接辞を接尾語:詞の範疇として、通常の助動詞とは区別することに賛成する
 立場です。(だが、態の一覧表は新しく作成してほしい)
〇状況証拠:国語辞典の助動詞活用一覧表でも、使役・受動が必ず先頭枠に置かれる
 のは、意味的にも使用順序一番目の優先度を示しているものです。
 (岩波:広辞苑だけが使役・受動を助動詞一覧表の後半に配置する。理由不明)
 (さらに角川『国語辞典 新版』昭和44年12月初版、昭和60年12月345版では、
 一覧表に使役が前枠側、受動が後枠側に他の助動詞と混在して置かれる。五十音
 順の並び)

 「態文法」を考えるなかで、態を特別視するわけではなくても通常の助動詞とは区
別すべきものとわかってきました。
また、同時に自他交替や態の生成で「動詞語幹との接辞接続」をする法則と、動詞活
用や助動詞接続でも必要になる法則とが何か違いがあるのだろうかと思案しました。
その結果、「動詞語幹と機能接辞の接続方程式」にたどり着きました。
★動詞運用の各段階に共通する方程式である。
動詞方程式=「動詞語幹+挿入音素+機能接辞」:3項方程式で表現。
〇「機能接辞」には、3種類ある。
 ①自他交替接辞、それに由来する態接辞、
 ②動詞活用接辞、
 ③助動接辞、(活用接辞+助動接辞の連結を含む) の3種類を想定する。
〇「挿入音素」は、動詞語幹と接辞との間に入って両者を音韻的に接続するための
 補間音素であり、「単音素」で間に合う。 (ほとんど間に合う)
〇「動詞語幹」は、語幹語尾により子音語幹と母音語幹の2種類に区分する。
★3項方程式の解釈法には、3通りの見方ができるが、ここで提唱する「態文法」で
 は、【動詞語幹+挿入音素】を一まとまりに解釈することを勧める。
 そうすれば、機能接辞は独立して子音語幹・母音語幹に左右されない形態であつか
 える。
・この利点は大きな効果を生み出すはずです。

【自他交替動詞生成の方程式】:態生成の方程式で詳細説明する。
 自他交替動詞生成=「【動詞語幹+挿入音素】+自他交替機能接辞」
 で多くの動詞が誕生した。
 (説明:次の態生成方程式の説明で代行。前章の例1〜例5も参照してください)

【態動詞生成の方程式】:態生成には態接辞を接続する。
 態動詞生成=「【動詞語幹+挿入音素】+態接辞」を、発話時点で発話者が作り出
す動詞単語。

〇態生成の機能接辞は自他交替接辞の中から基本の3つを再利用する。
・態接辞として汎用的に使えるもので、詳細は次節に示すが、
 可能態接辞:eru(える)、結果態接辞:aru(ある)、強制態接辞:asu(あす)、が
 基本の3つ。
〇口語体文法では、結果態や強制態に可能態を合成した接辞:
・受動態接辞:areru(あれる)、使役態接辞:aseru(あせる)、を含めて
 5つの態接辞を使う。
方程式を使う立場で態接辞を暗唱するときには、(える)、(ある)、(あす)、
(あれる)、(あせる)と唱えることができます。
子音語幹、母音語幹に左右されないからです。
方程式の要素:【動詞語幹+挿入音素】とは何を意味するのか。
動詞語幹の定義は変わらないので、「挿入音素」の意味付けを知りたい。
共通形式で方程式を提起したから、態の方程式と、動詞活用の方程式では
「挿入音素」の意味付けが異なるものでしょう。
【挿入音素の条件】:態接辞の場合
〇動詞語幹と態接辞が音韻的に直接つなげないときに「挿入音素」を挟み込む。
・態接辞はすべて母音始まりであるから、子音語幹は直接つながる。
母音語幹は「挿入音素」として子音単音の音素が必要である。
 態接辞の性質は、自他交替の機能接辞と同じだから、「原動詞の原形子音」を
 「挿入音素」とすればよい。
★母音語幹動詞の原形・終止形は「る」だから、[挿入音素]は[r]とする。
・見[る]→【mi[r]】、食べ[る]→【tabe[r]】、起き[る]→【oki[r]】、調べ[る]→
 【sirabe[r]】、、、これが【母音語幹+挿入音素】の形態である。
★子音語幹は、挿入音素は[]無しでよい。
・歩く→【aruk[]】、休む→【yasum[]】、割る→【war[]】、残す→【nokos[]】、、、
 これが【子音語幹+挿入音素】の形態である。
 :「双対環」表記で態の全展開をする。
まず、母音語幹動詞の場合:
・能動系:食べ[r]u→tabe[r]eru→tabe[r]aru→tabe[r]areru、
 強制系:tabe[r→s]as[]u→tabe[r→s]as[]eru→tabe[r→s]as[]aru
  →tabe[r→s]as[]areru、
 使役系:tabe[r→s]ase[r]u→tabe[r→s]ase[r]eru→tabe[r→s]ase[r]aru
  →tabe[r→s]ase[r]areru、
子音語幹動詞の場合:
・能動系:歩k[]u→aruk[]eru→aruk[]aru→aruk[]areru、
 強制系:aruk[]asu→aruk・as[]eru→aruk・as[]aru→aruk・as[]areru、
 使役系:aruk・as・e[r]u→aruk・as・e[r]eru→aruk・as・e[r]aru
  →aruk・as・e[r]areru、
【挿入音素:「r→s交替」の意味】
・母音語幹動詞の場合、能動系から強制系や使役系に移行するとき、
 挿入音素が「r」から「s」に変化するのはなぜか。推測思考する。
〇「食べさせる」は「食べ・させる」、「食べ[r]uことを[s]aseru」で、食べる・させ
 るの二語連結である。
・[r]は食べるの語幹原形語尾、[s]は「する」動詞の使役系での単音語幹音。
 「食べ・させる」で発話運用されるから、「【食べ・S+[]】+aseru」のように
 方程式=「【母音語幹+使役単音語幹S+挿入音素[]無し】+使役接辞」と認識すれば
 精密な解釈になる。
 「S」語幹が付けば「他を律する動作を表す」のに最適だろう。
通常は「食べらせる」とは言わないし、、、「r:自律動作、自分動作」だから。
・簡易的には[r→s]交替の表現で、「s」が強制系の単音語幹であると理解できれば、
 二語連結を一語に統合したと説明することになる。
このような語幹側の単語連結操作を[r→s]交替で済ませるということは挿入音素
を語幹側に置くことの合理的な立証でもある。

現状の態生成方程式の項立てに対する考察状況をまとめると、
①子音語幹動詞の態生成方程式=「【子音語幹+挿入音素[]】+態接辞」を適用する。
②母音語幹の能動系態生成方程式=「【母音語幹+挿入音素[r]】+能動系態接辞」を
 適用する。
③母音語幹の使役系態生成方程式=「【母音語幹・S語幹+挿入音素[]】+使役系態接
 辞」を適用する。(厳密な解釈)
 (融通的に挿入音素を解釈すると、これを[r→S]交替と表記することも許容範囲
 か)


【方程式の使い方の工夫】
 態文法「態の双対環」方式で提案する工夫の一つが
★態動詞生成=「【動詞語幹+挿入音素[]/[r/s]】+態接辞」と記述した方法です。
 子音語幹を:【aruk[]】、母音語幹を:【tabe[r]】、【tabe[s]】のように、最初に「語
 幹と挿入音素」を一括りで扱うこの方法は、態接辞を統一形態で表せる大きな利点
 を生み出します。
 発話段階で態接辞が一つに決っていれば、言い間違う心配はありません。
★つまり、態接辞の頭に「ら」や「さ」、「れ」が付きませんから、「ら抜き言葉」だの、
 「さ入れ言葉」だ、「れ足す言葉」だのと間違いの根源がないはずです。

〇日本語学分野では(ローマ字つづりで音素解析していますが)、旧来の方法から抜
 け出せず、
・態動詞生成=「動詞語幹:子音/母音+【挿入音素:[]/[r/s]+態接辞】」
 のままです。(音素解析で語幹判別が可能になったことに満足しているだけ?)
これでは、語幹形態2種と挿入音素付き態形態2種の最適組合せを常に発話者に委
ねることになってしまいます。(「さ入れ」、「れ足す」の混乱の元を残しています)
〇日本語教育の分野では、方程式の中身を一括した全体構文として教える、覚える
 方法です。
・態動詞生成=「【動詞語幹:子音/母音+挿入音素:[]/[r/s]+態接辞】」
 ですから、要素の組合せを意識しないで済むとしても、上級段階では整理して覚
 えてほしいですね。


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